「1/2ドキュメンタリー」 presented by 三坂 詩乃

2015年03月19日 23:20

 どうも、三坂詩乃です。

 ホラーを書けって言われました。

 

 *1/2ドキュメンタリー

 

 きっかけはメンバーの暴走担当・ナミが、珍しくマトモにも、こんな提案をしてきたこと。

「次の『風樹』、それぞれが書いたことのないジャンルを指摘し合って、それで書いてくるっていうのはどうよ」

 額面通り受け取れば、なるほど面白い企画。文章力の向上にもつながりそうだし、何よりメンバーの今までになかった作風を読めるというだけでワクワクするね。

 しかし、ここではたと思い立った。

 ――私って、何をリクエストされるの?

 『ワスレナ』や『Cruel circle』を始めとするファンタジーはお馴染み、『フロム・アスファルト』で恋愛ものもやったし、日常系なら『Strangers』、コメディチックなものは『スープの夢を見る夜』で挑戦済み。となると、もっとハードで想像もつかないようなものが来るんだろうなぁ……とそこまでのんびり考えてから、

(……あっ!?)

 急遽思考停止。天啓の如く閃いちゃったんですね、これが。予測可能回避不可能とかまさにこのことで、幸か不幸か予想がついてしまった私は、思わず言葉をなくして冷や汗の出るような思いをする羽目に。

「ホラー! ホラーが読みたいです!」

 ネロとクレハちゃんがそう声を揃えた時点で呟きもするよ、やっぱりか、って。……というのも、私がホラーというジャンルを得意としない……いや、怖いとかではなく単に苦手であるという純粋な事実はメンバー内に知れ渡っている訳で。見れば周りの面々もやけに乗り気だし、嫌な流れを察してコウヤ君に水を向けた。彼も“怖がり”と――あ、いえ彼は“怖がり”として知られているし。

「むしろ私はコウヤ君のホラー読みたいなぁ!!」

「えっ!? いや、俺は先輩の方が…!」

 コウヤ君はめちゃくちゃ慌てていた。そりゃそうだよね、うん、気持ちはわかるよ。苦手なものは書きたくないもんね、技術的に無理とか食わず嫌いでやりたくないとかそういうのではなく。これ慌てさせた側の台詞じゃないね。

 譲る譲る、と不毛なやり取りの合間――

「ああ! そういや三坂、あとSFも書いてないんじゃない?」

ナミからの救済。蜘蛛の糸でもなんでもいい! 全力で乗っかる。

「そ、そうだね! よーし、じゃあ私SFにしよっかなー!!」

 SFらしいSFを考えたことはないけど。近未来ディストピアの構想くらいならプロットがあったので、そろそろ蔵出しの時期かな、なんて思いつつ、心理的ハードルが下がってきて安堵。でもコウヤ君の方も引き下がるわけがなくて、結果じゃんけんに。

 三坂、グー。

 コウヤ君、チョキ。

(っしゃああああ!)

 隠しもせずにガッツポーズをキメて内心で快哉を叫ぶ。でも、ずーんと沈むコウヤ君を見てるとなんだか申し訳なくなって、つい、何の気なしに、ぽろっと言ってしまった。

「じゃあ、私もモノモノでホラー書こうかな……」

 その時、クレハちゃんの目がきゅぴーんと光った。

「えっ、本当ですか!? 書くんですか!?」

「え、あ、……えーと……」

 瞬間、しまった、と思う。言わなきゃ良かったよね、ホントに! 件のものがコレなんだけどね。

 言い訳探しで脳内がフル回転。上手いこと撤回しちゃいたい。実際書けないと思ったし、ここまででご覧の通り――ホラー要素ないじゃん。ここから超展開してもいいけどさ。

 でも、目をきらっきらさせて「ネロ先輩! 三坂先輩がホラー書くって!! Nόtt(のーと).先輩も!!」と言って回るクレハちゃんを見ていると先輩として引けなくなってしまったのである。悲しい先輩の性。リーダーとしての見栄とかも相まって……

 

 というのが、ここまでのいきさつ(リアルタイム私小説)だ。

 言ってしまった建前、ホラーを書かなくてはならないのだけれど……ここまで砕けちゃった以上、この感じでやってみようかな、と。

 

 ぶっちゃけてしまえば、個人的にはその後のネロの一言で十二分にホラーだった。今年度最後の活動ということで「みんなで遊ぼう!」と言い出したのは私だけど。いつか[Anecdote-小話-]のセクションでちらっと語った通り、モノクロモノフォニーで遊ぶのは別段驚くようなことではないので、みんなも普通に乗ってきた。

 でも。

「じゃあ、怪談の語り合いしよっか!」

 …………。

 泣いていいかな、と思った。もちろん全力で拒否した。春だよ。3月だよ。春の怪談ってフレーズの馴染まなさは異常だよ。そもそも、すぐに語れと言われて出てくるような怪談の持ち合わせなんてないよ。そんな簡単に語られちゃうと語られる側も拍子抜けするに決まってるよ。

 ……はぁはぁ。別に必死になんかなってない。怖いとか違うし。

 思えば怖い事って割と身近に多いと思う。特に遊園地は理解に苦しむ。自主的に恐怖を経験しに行く人たちの気がしれない。ジェットコースターだとかお化け屋敷だとか。試しにちょっと描写してみよう。

 

 曲がり角で白い影に出くわす。ゆらりと持ち上がった無機質な白。覆いかぶさるように広がるシルエットに気圧されて思わず立ちすくむ。凍り付く自分を差し置いてにじり寄り、距離を詰めた影を前にして、とうとう精神が限界を迎えた。意識するより先に悲鳴を上げて走り出す。

 

 ……お化け屋敷ってつまるところこんなものだと思う。そういえば昨年度の文化祭は、振り向いたすぐ傍に謎の白い影がいて驚くあまりに若干内装を破壊した。椅子を積んだ上に黒いビニールシートをかけていたのだと思うのだけれど、動かしたか倒したかしてしまったような気がする。

 ――そもそも怖い描写ってどんなのよ……。数行前のアレじゃだめなのだろうか。もっと吐き気を催すようなものがお好み? となると……

 

 

 壁掛けを外した先に現れた小さな穴。ぼろアパートに在りがちと言えばありがちな話だ。これで隣室を覗こうと考える不埒な奴がいたとしても驚かない。何故ならこれから俺も覗こうとしているからだ。

 そっと壁穴に目を押し付けてみる。

(……?)

 壁から目を離して首をひねった。何も見えない。若干赤く見えたのはきっと、反対側にかけられた何かが光を透かしているせいなのだろう。まあ、それはそうだ。誰だってこんな壁の穴堂々と晒したくない。来客があった時に必ず勘繰られるだろう、他人の部屋を覗こうとでも企んでるのか、なんて。

 はあ、と嘆息。ちょっと期待していた。いや、この言い方はすごく語弊がある。確かに隣人は美人の女子大生で、容姿が好みなのもあるけれど、単に興味本位だったのだ。むしろ料理中のような家庭的な雰囲気溢れる光景を目にした方が俺の好感度は――って、それはともかく。

 何となく、諦めきれない。再度穴に目を近づけてみる。

「……っ!?」

 そこで気付いた。覗き見える赤の正体はもっと生々しくぬめりとした――眼球だ。拡がった瞳孔がこちらの目と合う。じろり、と生物的な動き。震えるほどの怖気がするのだが、体が動かない。常識的に考えて変な話なのだ。先ほど見えた赤がこの充血した眼だとするならば、彼女はさっきも、いやそれよりも前からあの穴に目を合わせていることになる。そこまで他人事のように冷静に分析しながら、まるで自分の体でなくなったような感覚に歯ががちがちと音を鳴らし始める。自然と手が痙攣している。寒気がきつく取り巻いて、早くここから逃げ出したいと思うのに、合わせた目が離れない。

 喉の奥がぐぐっと奇妙な音を立てる。引きつって唾液が上手く飲み込めない。慄く俺を意に介さず、赤い眼球はゆっくりと回って不快な視線に舐め回される。

 粘度のあるその表面がてらりと不気味に光って、差した光の先で俺は確かに目撃してしまう。

 目は、嗤った。

 

 

 自分で書いてて怖くなってくるなこれ。アパートに住んだ経験はなくて良かった……実際想像力が豊富な人ってこれだけで怖いと思うんだ。自分の体は動かない状況で、偶然覗いた壁穴に相手はずっと目を押し付けてて、たびたび差す光で相手の目がちらりと見えて――、それが不気味に嗤った暁にはもう全力で逃げ出すよ。あ、主人公についてのツッコミは無しで。一般的にいそうな大学生を想像しただけで、偏見と誤解に溢れていると思う。もしくは男子ってこんなもんかなと思う。それからストーリーラインに独創性を求められるとすごく困る。なんかこんな話をどこかで目にしたことがあったんだ。今回単に怖い描写をやるってだけで書いたから。……ってあれ、なんか出来ちゃったっぽい?

 

 了

 

 

-あとがき-

 どうも、三坂詩乃です。一応これ、先頭文から小説のつもりです。書くに至るまでの顛末はもう本編の通りということで。

 はー。言っちゃった以上しょうがない、ってことは往々にしてありますけど、久々にやってしまった感がありました。ホラー苦手っていじられる宿命にありますよね。怖いのは本当にダメなんですけど。瞬間的には書けるかもしれないと思ってホントに一シーンだけやってみました。推敲とか一切ないです。怖いのひたすら堪えながら抑えめにしてやった挙句こんな感じでした。メンバーの皆許して!

 ってことで、半分コメディなトーンでお送りしました! またどこかで。