第四回「茶瑚川の廃墟」 presented by 実香
〝茶瑚川は、なんとなく春を迎えていた。〟
この文に見覚えがある方も多いのではないでしょうか。我が部の慈母的存在、紅葉ちゃんの「茶瑚川の廃墟」の最初の一文です。このムーニーな始まりかた、彼女らしくていいですよね。慈母の作品の中でも、とりわけ私がお気に入りなこの作品を少し紹介してみようかと思います。
ちょっとした刺激にも敏感に反応してしまう思春期。
「その子はその子でつらいこともあったんだろうけど。いかにもちっぽけで、苛々しちゃって。」
「中二病こじらせたんだろ。許してやれよ。」
あっさり切り捨てた帆香に、夕香はぷっと吹き出した。
「まあね。―――だってその子、死にたいほど辛いことが山ほどあっても、理想的な死を見つけることが生きる意義だから、とか言い出してさ。」
この会話からわかるように、この物語のヒロイン、帆香と夕香もまさにそんな時期真っただ中なのかもしれません。
そして自分は自分であるという感覚も獲得しきれていない二人の、不安とエンプティーが垣間見える会話が続き、わりとモラトリアムな青春ストーリーかと思いきや。
「やめろ‼ 離せ、離せってばっ‼」
夜の深い空ですら吸い込み切れなさそうな、ひどい怒号と、ひどい喚き声と、ひどい泣き声が響き渡っていた。
「離してよ‼」
鬼が来た。
とうとう、見つかった。
鬼は一人ではなく、強いのも、怖いのも、優しいのも、泣いているのもいた。
「帆香ぁっ」
「みんな殺す‼ 八つ裂きにしてやるから‼」
物語は一転、殺伐とした雰囲気に。
慈母には珍しい展開ですが、実は二人が激しく苛立っているのは思春期だからだけではありません。
なぜ二人は殺す、などと物騒なことを言うのか、鬼とは一体なんなのか。
衝撃的な終わりの物語の続きは是非モノモノで。