第二回 「本日はお日柄もよく」 presented by 紅葉

2015年04月01日 10:09

   

   ブックレビュー「本日はお日柄もよく」 作者:原田マハ 徳間文庫

 

〝困難に向かい合ったとき、もうだめだ、と思ったとき、想像してみるといい。―――三時間後の君、涙がとまっている。二十四時間後の君、涙は乾いている。二日後の君、顔を上げている。三日後の君、歩き出している。〟

 

主人公こと葉の、もう一つの家族ような存在であった、「今川のおじさん」の言葉です。

言葉とは不思議なもので、人への伝わり方や、それが持つ意味が全く同じということは恐らく、人の一生の中で二度ないでしょう。人を支える、励ます、笑顔にする。時には泣かせ、悲しませる。このお話は、そういう言葉たちが人の心を動かしてゆく様を、またそういう言葉の不思議な力に魅せられて、新たな世界に出会ってゆく主人公を描いたおはなしです。

 私自身の感想を述べさせていただくと、文芸部員として、この小説はぐっと胸に来るものがありました。言葉で人を動かしてみたい、自分も言葉をこんなに魅力的に操れたなら・・・文芸部に限らず、読んだ人は誰でも、思わず想像してしまうのではないでしょうか。さっくりと読みやすい文章ですが、ストレートに心に染みる言葉たち。言葉で人の心を動かす鮮やかな手つきがとても軽快です。

こと葉もまた、そんな『言葉のプロフェッショナル』たちに出会ったことをきっかけに、言葉に魅せられ、人生を変えられた一人です。彼女は挫折や苦い思いを味わい、新たな世界に出会って困難や驚き、奮闘もして、幸せな恋もします。何よりこの小説には、登場人物たちの体温を感じられるような、温かい幸せが多く書かれているのです。

 「言葉と向き合う。」 このことについて、改めて考えさせられます。そして、色々なことがある普段の生活にちょっと擦れてしまった読者を、しゃんと前向きな気持ちにさせてくれる素晴らしい一冊。私はこの小説を皆さんにお勧めします。

ぜひ読んでみてください。

  *紅葉