『月兎ノ哀歌』の小話 by 三坂 詩乃

2015年05月23日 15:51

 どうも、三坂詩乃です。最後の刊行機会が迫ってめちゃくちゃ寂しいです。

* 記事はかなり長いのでご注意を。“唯一の良心”は嘘を吐きません。誇張抜きで長いです。

 

 風樹vol.78に掲載した自作品『月兎ノ哀歌』について少しお話ししたいな、と思って筆を執りました。

元はHPで説明しますよと後書きにも入れるつもりだったのですが、ページ上の都合が…

 * 見直したら書いてました。あほか。

 なにせ、30ページです、30ページ。メンバーのみんなをどれほど驚かせたことか。しかも、一時間かけて5ページ削ったのにあれです。後書きで1ページ、としてもよかったのですが、良心が痛みました。二つ名が“唯一の良心”なもので。

 〆切をぶっちぎった、と明言したにも関わらず急いで仕上げた作品だったので、練りが甘いのは自覚してます…。拾えてない伏線だったり用語だったり、不明瞭な展開だったり。珍しくスランプだったんですホント許して下さい…。

 

 それでは、真面目な設定説明をば。

 冒頭、そして最終部で繰り返された「CQ」。4つのパターンがあったことにはお気づきかと思います。

 意味はその直後に綴られる言葉そのままなのですが、では何故あの表現を伴ったのか?

 その答え合わせをしてみようかと。「本編読んでないんですけど!」という方はそちらを先に読むことをお勧めします。この記事を書いている現在ではまだ作ってませんが、風樹もWeb版を【Novels -作品集-】に公開しますので。思い切りネタバレの嵐です。それでもいい方は改行の先へ――!

 

 

 

 

 

 

 件の部分を抜粋しますね。

 

 - CQ; CQ; CQ -

 誰カ気付イテ。

 - I: CQ CQ -

 見ツメナイデ。

 - CQ; I CQ -

 見タクナイヨ。

 - I CQ CQ -

 聞コエナイノ。

 

 「CQ」というのは通信用語で、全ての無線局を一括して呼び出し、通報を同時に送信するときに用いられるものです。元はフランス語の"Sécurité(セキュリテ;安全、注意せよの意)"から来ていて、CQに発音が類似しているそうです。

 これに込められた意味はいくつかあり、「Seek you(訳:あなたを探している)」・「Come Quick(訳:早く来て)」・「Call or Quarters(訳:四方に呼びかける)」など。また、三つ目について「CQD」とされるときDは遭難を指すDistressの頭文字で、救難信号の意もあるようですね。

 と、ここまでが正式な「CQ」の意。でも掛詞が大好きな三坂としては、こういう略が出来そうな言葉を造りたくなってしまうもので、いろいろ考えてみたんです。例えば「See Q(訳:謎を見つけた;Q=Question)」・「Cry Quietly(訳:静かに泣く)」、ここから派生して「CQCQ(シクシク)」とか。そこに「I」を付け加えて文章中で表現したのは、英語の文法を考えて主語としたかったからです。

 

 まあ長々と語りましたが、これらを踏まえて続けますよ。結果として私は「CQ」を「届いて」と訳すことにしました。したがって、一つ目のCQ三連呼「CQ; CQ; CQ」は単なるライアからの発信です。「誰か聞いて! 届いて!」とひたすらに周りに呼びかけるのです。


 そして二つ目「I: CQ CQ。使う文字を「I」「C」「Q」の三文字に限定する以上、間に挟む記号で区別をつけるほかなかったため、こんな表記になりました。「:」が示すのはアイカの発言であること。「キミ(ライア)を探しているんだよ!」との叫びに「見つけないで、見つめないで」と返しているわけです。

 一応ダブルミーニングは持たせていて、ライアの台詞とするならI:」で嘘つきな自分と区切りをつけ、「Sought you(sought=seekの過去形)」、ここになって素直に「キミを待っていた、求めていた」と吐露する、なんてのも秘めていました。自分でもどちらか決めかねていました。

 

 それから三つ目、これは直後の文と繋がっていきます。本編最終部がそのままで、「CQ;」は一つ目と同じ意味。「I CQ」は「I see Q」で、謎とは「アイカが泣いている理由」です。「誰か聞いてよ、ボク分からないんだ。どうしてアイカは泣いているの?」→「そんなの見たくないよ!」と続くライアの言葉になります。

 

 最後I CQ CQもライアで、示す所は「I cry quitry」です。もはや声まで聞こえなくなってシクシク泣く、というのが意図したかったところです。

 

 

 ……改めて書きながら見直しましたけど、こんなの説明入れないで分かる訳ないじゃないですか。やっぱ記事書いて正解でした。意味深な言葉として残しても良いものでしたし、あくまで「私の解釈」ですけどね。読者さんそれぞれにそれぞれの解釈があったらすごく嬉しいです。読み飛ばしてた、と思ってた方はこんな解釈で書かれていたんだよ、と知ってもらえるだけで十分です。

 また、本編の後書きで述べているように、この物語は昔構想していたものを引っ張り出してきたわけですが、練っていた2年前の当時は自分の脳内で完結しきってしまった故に最後まで書ききれなかった物語でした。展開としては以前書き上げた『ワスレナ』に少し近いものを感じてしまいますが、描きたかったものが同じであった以上仕方ないですね。「ヒトとヒトでないモノの関わり」という点で共通しているんです。しいて言えば「心を抱いたロボット」を描きたかったところでこの物語が先んじています。

 心を得る、というのは必ずしも幸福でない気がします。理性がどんなに正しい答えを提示したところで、それを素直に呑み込み行動できるなら誰だって苦労はしないのです。ライアだって始まりの判断は過ちだと知っていながらそれを犯してしまいました。自分の心の求めるままに動くとは、時として過ちの痛みを抱えながら茨の中を歩くような事態も引き起こしうる。それでも人は動いてしまうのです。よほど意志が強くなければ、自分の望むままに。自分の想いを殺すことはとても痛く苦しく、酷い後悔を生んでしまうのです。と言ったって、自分の求めたものが間違っていたならばそれもやはり後悔に繋がってしまうのですから、心が悔やむことを引きずらずに鼓動を打つことなど出来ないのかもしれません。

 最後にキャラクターたちの名前について。でも、これは単純明快ですね。読む中で気づいた方も多いはず。「アイカ」はタイトル通り「哀歌」ですし、「ライア」は作中でアイカが述べているように「嘘つき=Liar」です。

 

 月兎ライアのひたすらに哀しい歌、いかがでしたか?

 長い記事、最後までお付き合いいただきありがとうございました!