LESS
打ちっ放しのコンクリートに雨が降り注ぐ。割れ目から生えたタンポポは、くたりと茎を萎びさせていた。
ビル街の窓には明滅する光。S・O・Sを求めるモールス信号の様に、光っては消え、光っては消え。ショーウィンドウは割れていた。マネキンは倒れていた。ひらり風に舞う薄緑のショール。ひらりひらりと手旗にも見え。
独り道を歩く少年。往来に他の影は無かった。ジーンズ地のパンツの裾はほつれ、ベルトには無造作に拳銃が差してある。
その少年はどこへ向かうというのか。ふらふら左右に振れながら、道を進んでいく。
道と言っても、かつての舗装された平らな道はほとんど跡形もなく、ヒビや何かわからない黒い塊達がひろがっている。そんな道無き道を歩き、少年はある場所にたどり着いた。
これは東京タワーだろうか。赤黒い四角柱状の鉄塊は立っているのが不思議なくらい傾き、今にも倒れそうだ。
「あの出来事」の後、東京……いや、世界はまるでゴーストタウンのようになってしまった。少年はその時に生き残った、数少ない人間である。
少年はどこへ向かっているのか、ふらふらと歩き続ける。
と、その時。
背の高い男が少年の前に立ちはだかった。少年は驚きの色を一切見せず、男と一言二言交わした。
すぐに男は去り、少年はただ独り、そこに残された。
少年の顔は歪む。
雨が一層激しさを増し、少年を打ち付ける。
少年はその場にしゃがみ込み、頭を抱え、叫んだ。
しかし、その叫び声は雨によってかき消されてしまう。
遠くで雷が鳴った。
しばらくして、少年はまたどこかへふらふらと歩き始めた。
何が起こったのか、というのはよくは覚えては居ない。たぶん世界で生き残っている人間はみんな覚えては居ないはずだ。あまりにも一瞬だったから。
「家族は、死んでいたよ。」
少年は男からその事実を言われたのだ。少し前からあのあたりの町にいるはずだ、という目撃情報などを頼りに調査をしてもらっていたのだ。淡い希望は男の一言で絶望へと変わってしまった。
何を支えに生きていけばいいんだ、と煩悶する。両親を呼んで、兄弟を呼んだ。
雨がびしゃびしゃと歩く少年にたたきつけられる。ゆっくりと顔を上げると雨雲の切れ目のようなものが暗い空にうっすらと見えた。湿った空気が滑るように少年のほおをなぞっていった。