星降る夜に

 灰色に沈んだ町には、サイレンが響いていた。

「星降り警報」―――レベルX。

 風香はぼんやりと、雨に塗り込められた窓の外を眺めていた。

 

 いつからか、地球上の人類は縮小していったらしい。教科書でいうなら地球史γ、たぶん始まりは三千年ほど前のこと。

 そして、今風香がすんでいる都市は「最後の都市」 千年くらい前まではほかにも都市があったけれど、降り注ぐ星にみんなつぶされてしまったのだ。

 ピーー、と小さな電子音がした。

『明日も雨だよ。』

 そして届く小さなメッセージ。12Bitにも満たないたった七文字の言葉が風香をはげます。

 

 

 雨霧にけぶる町は好きだった。独特な雨の臭いも、屋根が弾く水玉の音も。翌朝のぬかるんだ水たまりも。

 みんなは森――町の外に出るなんて信じられないと言っていたけど、風香からすれば町の外を知らない皆の方が信じられなかった。

 町は全てカーボンナノコンクリートで作られたドームに囲まれていて、一生の内に木々はおろか太陽すら見ようとする者は少ない。誰もが『町の外に出たら星に中る』と思っているらしい、のだ。

 風香はそのことを考えるたびにみんなが可哀想で、哀れで、愚かに感じる。

 ああ、なぜこんなにも素晴らしい世界を知ろうとしないのか!

 

「始まっちゃった、か――」

 窓の外から爆音が響く。固められた町にぶつかっている音だ。

 コンクリートが砕け散る音、星の欠片とガラスがぶつかり奏でる高い音、木造の建物が裂けるように崩れている音。

 何キロも離れているのに、それらの音が聞き取れるほど、風香は昔からこの音を聞いてきた。

 

 

 風香が小さい頃から、星との接触は多かった。そんなにぶつかっても壊れないというこのドームも、たいしたものだ。確か、町の天才科学者たちが開発した物だと聞いている。

「さて、行くか」

 風香は、身を守るためにみんなが家に避難するこの時を見計らって、いつも町の外へ出ている。秘密の抜け道があるのだ。

 風香は今日も森へ行こうと、すこし浮き足だって家を出た。

 いつもの道を使って外へ出る、そのときだった。

 熱い風が風香を包んだ。

 風香は星を見る。

 そのまま、意識は途切れていった。