ゆきんこ

 久々に雪が降った。関東地方には珍しいほどの大雪かつ、いつも空っ風の吹くこの地域に関しては実に五年ぶりの雪となった。

 もちろん学校は安全を考えて休校、つまり。

 子供の天下である。

短いタイプのおしゃれな長靴ではなく、農家の方々がはくようなゴム底でないと埋まってしまう。記憶の片隅にも降ったことのない雪で遊ぶため、子供は外へ出た。

「うっわああああ!! すっごおおいい!! 真っ白だああ!! 」

「雪合戦しようよ! 」

「雪だるまが先だよ!」

大人がなれない雪かきに悪戦苦闘しているのを尻目に子供たちはきゃあきゃあと歓声を上げながら近くの田んぼに入る。子供が入って雪合戦をするくらいは許してもらえるほどの大人の忙しさと信頼のたまものだ。

 

「せんせえ! 雪合戦しよう! 」

今住んでいるアパートが学校の近くなので子供たちが彼を呼びつけに言ったのが数十分前、引きずられるように田んぼに出てきたのが数分前。

 遠くで誰かが、仕事が欲しいいい!! と叫んででいるのが聞こえる。たぶん就活中の高校生だろう。雪で交通がストップして面接に間に合わなかったのだろう。

「先生、あの人……大丈夫かな。」

「うん……大丈夫だと思うよ。雪合戦やろうか! 」

「やったあ!」

二十二人の生徒が大合唱した。

 

 牡丹雪だったようでとても固まりやすい。えい、やあ、やったなこんにゃろ、と甲高い声が広がってくる。ぼすっ、ばすっ、彼のコートにもたくさんの雪玉が当たり、白い固まりが残る。

 雪の降った次の日の空はとても青い。冴えた光が雪に反射して目を焼く。

先生、先生、と一人の女生徒が彼の袖を引く。一人ぽつんと田んぼの端のほうでたっている色の白い女の子を彼は見つけた。

「知ってる子?」

「ううん。みたことない。誘ってもいいかな?」

「いいよ。」

雪に足を取られつつ彼女は女の子の方によっていってその手を取って雪合戦に参加し始めた。最初は硬かった表情が少しずつほぐれていく。

 

夕方になって真っ赤に燃えるような空があたりを包み込む。

「雪だるま、明日も残ってるかな?」

「残ってるんじゃない?」

「明日も雪降らないかな?」

「明日降られると先生は困るなあ……。」

子供たちを一人一人送っていって、最後に一人残る。その子は最後に雪合戦に参加した女の子だった。

「君はどこに住んでるの?」

女の子はすっと上の方を指した。山の上なのだろうか、そうだとしたらこんな遅くまで引き留めてしまったのはまずかったかもしれない。

「私、お空からきたの。」

疑問のマークがぽこぽこと浮かぶ。

「今日はとっても楽しかった。バイバイ、」

天に吸い込まれるように女の子は飛んでゆく。

「また来年もくるから。遊びに来るからね。」

手を振って一番星の方に飛んでいった。

その子が消えたとたん、星が一気に瞬き始めた。