禊萩
禊萩
草木が、揺れる。
月明かりに照らされた禊萩が、揺れる。多年草のため、この秋でも花を咲かせている禊萩の花言葉は、「悲哀」「慈悲」「愛の悲しみ」「純真な愛情」などがある。「純真な愛情」以外の花言葉の由来は、「お盆の花」という位置づけがあるためだそうだ。溝に生息しているため、少しの風が吹こうとも、散ることはないだろう。
その、禊萩を眺めている女性が一人。彼女は、禊萩を誕生花とする日の一日である、八月十三日生まれだ。そのため、彼女は禊萩という花を好んでいた。
しかし、家に飾ろうとは決してしなかった。自然に映える姿こそが良いものだとしたのだろう。周りの者は、「お盆の花など縁起が悪い」と言うが、流されることなく愛した花である。周りの毛嫌いする様子も、家に飾らない理由の一つと思われる。
ある日、毎晩眺めていた禊萩が、何者かによって踏み荒らされていた。まるで、禊萩を恨んでいるかのような荒らされ方だった。
「仕方ない…のかな?嫌われてる花だし…」
彼女は悲しそうに――「悲哀」の色を込めて――言った。
「きっと、『慈悲』の心がない人がやったのね…」
禊萩への、儚く散った「愛の悲しみ」を感じていた。
彼女は、花言葉の通りだと思いながら、禊萩へ向けていた「純真な愛情」を、想いを馳せながら、その場を離れた。
Fin.