恋はいつでも右回り

  知り合いに変な女がいる。

 それに気づいたのは学校の席が隣になって一週間が経ったころ。

 それとなく眺めていた彼女の行動は奇行としか言いようがなくて、けど「こだわり」の一言にも収まる程度のもののような気もして。

 率直に言おう。

 彼女は必ず右回りに行動しているんだ。

 その顕著な例はノートだ。どのノートも―英語も国語も数学も関係なく―右上から始まり下に行き、そして左に移って左上で収まる。

 はっきり言って見づらい。

 けど本人はそれが良いと言う。

 

 彼女の右回り行動はそれだけに収まらない。声をかければ必ず右回りで振り向くし、体育祭ではトラックを逆走にも関わらず右回りで走っていた。彼女が先生にこっぴどく叱られていたのを覚えている。

 彼女の奇行のことは、クラスのほとんど誰もが知っている。みんな彼女にそのことを聞いてはいるんだがどういうわけか、彼女は頑なに理由を話そうとしない。

 どうして理由が知りたくなった俺は、彼女から理由を聞きだそうと、彼女に話しかけ、懇意な間柄になり、いつしかいつもそばにいる存在になった。右回り行動以外は、彼女はふつうの女の子だったし、可愛かった。

 そしてある冬の日、いつも通り彼女の右側を歩きながらの帰り道。彼女は遂に、その重い口を開いた。

 

「あのね、私がいつも右周りするか分かる?」

 そう、それが知りたかったの!だから近づいたの、なんて言うことなんか不可能なほどに彼女の顔は深刻なものであった。一瞬おじいちゃんの遺言なの、とかそういうブッとんだのか、と勘ぐるが、そんなことはない。たしか、彼女のおじいさんはお元気である。それを数秒もせずに考えて俺は、分からない、どうして、と聞いた。

「…言っても笑わない?」

「笑うわけないじゃん。」

「笑わないでよ?あの、私が右回りが好きな理由はね、好きな人が時計の人だったの。」

 笑うとという行為にはまず、その前提にあるものが分からないといけないので笑う前に俺は、はあ、という嘆息とも呆れともつかぬ声を上げる他なかった。まず、時計の人とは誰ぞや。で、なんで右回りになるのか。

 そんな俺の大混乱も知らずに彼女は話し出した。

「昔、駅で転んだ時に助けてもらったの。頭が時計の異形種の方で…」

 おいおい、異形の頭を持つ異形種なんか絶滅危惧種じゃあないか。

「その人にずっとお礼を言いたいんだけれど……。」

 はあ、ほんとに純粋だな、と言っていいのかどうなのか。

 

『駅で転んだ時に助けてもらった』だけで好きになるとは、純情に収まり切るレベルなのか。

 否。そもそも、

「なんでお礼を言いたいから右回りになるの?」

 オレがそう聞くと、彼女は耳を赤らめながら告げた。

「………だから。」

「え?」

「好きな人みたいになりたかったから!」

 彼女はこちらに振り向いた。右回りに。

 ――そう、コンナフウニ。

 彼女の頭が弾け飛ぶと、その中から時計版があらわれた。

 

 了